亀井貫一郎『日本民族の形成1』

亀井貫一郎『日本民族の形成 1ユーラシアの中の日本』(原書房、1972年)を読んだ。通読としては3回目だろう。この本を古書としていつどこで入手したかは記憶にない。いまでも日本の古本屋などで1000円以下で購入できる。

日本民族の形成1 亀井貫一郎.jpg

しかし、この本の内容は、視野の狭い偽アカデミズムに縛られた日本古代研究書か、でっちあげの眉唾日本古代史マニア本かが多いなか、モンゴロイド、コーカソイドの多様で交錯した発生、移動、混血とその文化進展を追いながら、ユーラシアの長い歴史をとらえた、類例のないものだ。ソ連と西欧の両方の考古学の成果を亀井は視野に入れている。

残念ながら、この本の続巻の2と3が未刊行のようだ。

亀井貫一郎は、大名の亀井家の子孫(ただし、養子に入った公家の血統)で、一高、東大法学部卒後、外務省入省。交際情勢専門家として海外を歴訪し、欧米の大学で文系理系の研究を進める。のち左翼系の政党所属の衆議院議員。「大東亜戦争」積極的推進者となり、敗戦後、公職追放。

Wikipediaでは、政治家としての一面しかとらえられていない。
亀井貫一郎
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%80%E4%BA%95%E8%B2%AB%E4%B8%80%E9%83%8E

豊かな国際体験と幅広い見識を持つ。ドイツでの講演を基にした『日本民族の形成史』(東洋経済新報社、1938年)が発禁となる。

その経緯は、『日本民族の形成 1ユーラシアの中の日本』巻末の原書房代表取締役、成瀬恭「あとがきにかえて」にこうある。

日本民族の深源が中央アジア、また南アジアにあるとし、原形は中国大陸で形成されたとしたこと、神武紀元を西暦一世紀としたこと、王朝並立交替を論じたこと、さらには「天照大神」を(彼女)としたことにより不敬罪に問われ、発禁に処せられてしまった。

『日本民族の形成 1ユーラシアの中の日本』は、ユーラシアの地図を見ながら読まないと理解できないし、日本人の祖先がいた場所ながら、私たちになじみの少ない場所が頻出する。私も3回にわたる通読でどこまで理解できたかおぼつかない。

しかし、NHKの1980年の番組から始まったシルクロード・ブームは、異国情緒の魅惑にとどまらず、やはり日本人の祖先の遠い記憶が喚起されたのが原因だろう。亀井の見識は卓抜している。

ところで、私の俳句の裏付けを亀井の『日本民族の形成 1ユーラシアの中の日本』に発見した。

  すなあらし私の頭は無数の斜面 夏石番矢
  
  出典:『人体オペラ』(書肆山田、1990年)

黄色人種の皮膚がなぜ黄色くなったか。なぜ体毛が薄いのか。亀井はこう説く。氷河期の直後の前代未聞の乾燥期に、北西の風にあおられた砂嵐がユーラシア内陸部で猛威を振るい、黄土地帯ではケラチンという角質が人々の皮膚をおおい、黄色くなった。また、砂嵐で飛んできた黄土の付着を防ぐため体毛も薄くなった。

私自身があまり経験のない「すなあらし」が、どうしてこの俳句のなかで切実なイメージとして湧きあがったのか、亀井の文章を読んで深く了解できた。

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