八木忠栄詩集『雪、おんおん』(思潮社、2014年6月)は、いい詩集だ。
今年前半の詩集で、私が手にしたなかでは、
倉橋健一『唐辛子になった赤ん坊』(思潮社、2014年2月)
悪夢と老婆 倉橋健一詩集『唐辛子になった赤ん坊』
https://banyaarchives.seesaa.net/article/201402article_15.html
と並ぶ。
吟遊懇親会を、八木忠栄『雪、おんおん』を楽しむ会
第17回吟遊同人総会プログラム
https://banyaarchives.seesaa.net/article/201407article_29.html
にしたのも、この詩集が高度なレベルでありながら、楽しめるから。
八木忠栄詩集『雪、おんおん』への俳句
https://banyaarchives.seesaa.net/article/201407article_38.html
この会で、八木さんが朗読してくださったのは、『雪、おんおん』収録の次の3篇。
山本一太朗撮影
「神さまの午後」
「夢七夜・抄」の「第五夜(胡同にて)」
「こぼれる、彦六さんよ」
詩のことばにふくらみとやわらかさがあり、そして自然なユーモアが湧き出ている。社会批判も無理なく溶け込んでいる。詩には俳句が陰に日向に登場する。八木さんがひとかたならず親しむ落語の話芸も、そこはかとなく感じられる。
「第五夜(胡同にて)」のチャップリンと西瓜の取り合わせは見事。すぐれて俳諧的。それを1句にまとめると、こうなる。
チャップリン西瓜ぶらさげ北京で迷子 夏石番矢
「こぼれる、彦六さんよ」は、「こぼれる」という動詞が超現実的に展開する。アンドレ・ブルトンたちのような痙攣なしに、なめらかに。後半、永田耕衣、加藤郁乎などの俳句数句が本歌取りされている。
とくにおもしろいのは、
ドスドス、こぼれる
涙からどんぐり目が
ちょうちんから鼻ぼこが
入れ歯から爺ちゃん婆ちゃんが
札束からふところが
メイルから携帯電話が
「ドスドス」は方言? 新オノマトペ?
この詩に対しても1句。
ユーモアから八木忠栄がこぼれる入れ歯の秋 夏石番矢
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Fujimi