古事記ノート(25) 日朝をつなぐイナヒ

『古事記』『日本書紀』とも、後の神武天皇であるワカミケヌの同母兄として、イナヒ(稲飯)が登場する。『日本書紀』では、神武東征の際同行し、熊野沖で暴風に遇い、入水するが、『古事記』上巻最後では、神武東征以前に、「妣の国」である「海原」に入ったとされる。いずれも、あまり目立たない存在。

ところで、『新撰姓氏録』右京皇別下の、新良貴(シラギ)氏は、イナヒの末裔であるとする。また、イナヒは新羅国王の祖とも記す。

イナヒについて矛盾と混乱が見られる。これは、些末な事柄のようで、日朝の古代を隠蔽する煙幕が、ここだけ途切れて、はからずも正体を現している感がある。

イナヒとワカミケヌの父は、ウガヤフキアヘズ。この男の息子として、日本の初代の天皇ワカミケヌ、新羅国王の祖イナヒが生まれている。

ウガヤフキアへズは、日朝に分化する前の王家の祖というとになる。この名前に含まれる「ウガヤ」は、古代朝鮮中南部に存在した加羅諸国の一つであり、その国の王が、ウガヤフキアヘズだったのだろう。

ウガヤフキアヘズの父は、ホヲリ(山幸彦)であり、母は出産時に鰐となる、海神の娘トヨタマヒメである。山の神と海の神の交合によって生まれているのがウガヤフキアヘズ。

その息子イナヒの名は、稲の霊を表す。すると、山と海の民が合流し、稲作を主とする集団が生まれ、船を操って海を往来する。そこから、日朝のいくつかの王国の長を出す一族が出現する。

こういう歴史が、イナヒを通じて見えてくる。『古事記』にも『日本書紀』にも、この歴史的事実をあきらかにしたくない意図があったのだろう。

  浜に立つ玉とも鰐ともならない女  夏石番矢  


参照
古事記ノート(24) 阿曇族について
https://banyaarchives.seesaa.net/article/201309article_37.html

この記事へのコメント

  • 花田

    こんばんは。鬱陶しいかも知れませんが、しばしばブログにお邪魔します。よろしくお願いいたします。嫌韓流などという言葉も有りますが、人種は遥か昔に混交していますね。差別は無意味ですね。勉強になりました。ブログの過去記事も断片的に読ませていただいています。膨大なデータの蓄積が凄いですね。長文失礼しました。
    2013年11月29日 01:07

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