大沼正明第二句集『異執』のゲラを読む

大沼正明第二句集『異執』(ふらんす堂、2013年刊行予定)のゲラを読む。今年の1月にゲラが送付されてきて、その後3回速達で、字句の訂正が著者から届く。

2度、全句を通読したが、理解不可能な句がかなりあり、依頼された栞文の執筆がはかどらない。意味不明な単語をGoogleで検索すると、意味やイメージまで判明し、解読できた場合もある。

  魚付林のお天気雨を頬張るらん  大沼正明

魚つき林
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AD%9A%E3%81%A4%E3%81%8D%E6%9E%97

だが、解釈がなかなか進展しない句も少なくない。ことばの文法的連関がはっきりせず、イメージも未熟なまま。

  キュッ教室の誰も逃げ水ゆすらうめ

  ホームレス月満ち欠けを牛蒡抜き

  改札抜けし剃刀と生まれたとしても性差(ジェンダー)  大沼正明  

大沼正明が、中国東北地方の大都市、長春にいた1993年、私も彼の手助けを得て、10月8日から16日まで長春に吉林大学招聘講師として滞在し、同大学で講演を3回行った。その間、10日に日帰りで大沼と吉林大学の男子学生とともに、満州鉄道に乗ってハルビンも訪れた。

その時の俳句が、私の句集『地球巡礼』(立風書房、1998年)に。

  長春で説く「空虚な中心」ねこじゃらし

  哈爾浜(ハルビン)の空気近年ちりりりり

  すべてを忘れポプラ大樹は黄葉す

  長春で蛇口をひねると蚊が起きる

  馥郁たる気功術あり落葉樹  夏石番矢

長春の仏教寺院で大沼正明(向かって右)との写真。

画像


大沼は、1946年中国東北地方の鞍山生まれ。最年少旧満州引き揚げ者。自分の生地へのこだわりから、1991年から1995年にかけて、長春を拠点として生活した。その時期の俳句が、『異執』のゲラにもある。

  蟲追ウ仕草で南ヘ盲流(マンリウ)オロオロト

  主義とは何?皮蛋(ピータン)内部の闇を舐める  大沼正明

その前後、東京や佐倉に住んだのち、現在は仙台在住。2011年の東日本大震災にも遭遇した。

この『異執』には、大沼正明にしか書けない、重い内実があり、ユーモラスな現代俳句もむろん多く収録されている。

  そこの家庭の父なる迷路を走れメロン

  老死の前のいくとせか塩焼きの鮎といます

  鱈の白子を菊と呼ぶ地で金策せり

  園児すでに旅人シーソーに月と日

  散骨や吹かれてクローン山羊の髭に

  ひばり見えねどひばり聴える指切げんまん

  小さな天の尻餅のような文鎮ください  

  テキ屋きて社会の窓からいわし雲  

  フランスパンに騎(の)ったら騎ったで巨根戦争す  

  ラッシュ車内に立寝しバオバブ呼んでいる  大沼正明

栞文が書けるのは、3月になってからとなりそうだ。


参照
大沼正明第2句集栞文執筆承諾
https://banyaarchives.seesaa.net/article/201210article_31.html

ハン・ヤン登場 大気汚染都市ハルビンの底力
https://banyaarchives.seesaa.net/article/201302article_16.html

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