『源氏物語』を読む7

『源氏物語』の半分、「藤裏葉」まで読む。ここで物語は大団円。「桐壺」から「藤裏葉」までを読み通して、気付いたこと。

1 平安朝貴族は、五感のうちでも、視覚、聴覚、嗅覚を働かせての繊細な美学を発達させていた。その繊細さは、現在に至る日本的美学の基盤になっている。触覚と味覚はあまり問題にされない。

2 都に対する地方、須磨や明石はまだしも、北九州(筑紫や肥前など)と近江は粗野な田舎として、当然のごとく軽蔑されている。

3 作者紫式部と当時の貴族のナルシシズム美学は、「藤裏葉」の末尾で、

光源氏(父)=冷泉帝(子)=夕霧(子)

の三権力者のクローン人間的同一性の美しさの賛美で極まっている。これは、いささか常軌を逸した美学。

4 登場人物たちは、人目を常に気にしており、主体性が乏しい。今日の日本人の行動パターンの原型が見られる。

5 四季の美学も、この物語の主旋律の一つになっていて、この美学を踏まえながら、芭蕉の正風は新しい美学を開拓した。さて、季語にこだわりながら、現在の俳人たちは新しい美学を生み出そうとしているかどうか。

6 毛筆の筆跡についての美学も、この物語で語り手と主人公・光源氏らによって何度も語られるが、筆の文化は、日本の戦後に形骸化された。 

7 この物語も、歌物語の系譜に属するもので、頻繁に登場人物によって詠み交わされる和歌がいかに当時の貴族にとって必要不可欠な多重の言語ツールであったか。意思疎通、挨拶、儀礼、品定め、人格と教養提示などのツール。現在の短歌には、こういう役割は薄れている。

  紅葉の広庭美男三人同じ顔  夏石番矢  


参照
『源氏物語』を読む6
https://banyaarchives.seesaa.net/article/201211article_14.html

『源氏物語』を読む5
https://banyaarchives.seesaa.net/article/201211article_9.html

『源氏物語』を読む4
https://banyaarchives.seesaa.net/article/201211article_6.html

『源氏物語』を読む3
https://banyaarchives.seesaa.net/article/201211article_4.html

『源氏物語』を読む2
https://banyaarchives.seesaa.net/article/201211article_2.html

『源氏物語』を読む1
https://banyaarchives.seesaa.net/article/201210article_36.html

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