4か国訪問のレポート提出

9月の4か国訪問のレポートを、EU・ジャパンフェスト日本委員会へ提出した。帰国後、東京ポエトリー・フェスティバル2008の開催が近かったため、これまで書けなかった。下に、全文を引用し、写真やリンクを挿入してみる。

ヨーロッパ4か国を訪れて
――俳句への熱意と日本語への関心

                  夏石番矢

 2008年9月5日から25日まで、約三週間、ヨーロッパのバルト三国とイタリアを訪れた。四か国を集中的に訪れるのは、私にとってはじめての経験だった。
 ラトヴィアでは、国をあげての「詩の日々」という詩祭に招待され、

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同国で出版された私の126俳句選集『雲から声』(ミネルヴァ、リーガ、2008年)

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Balsis no mākoņiem, Minerva, Latvia, 2008.
http://www.jr.lv/lv/veikals/prece/index.html;jsessionid=8425D73C9DA0E3F078E62BAF41CAE854?shop_id=292338

のプロモートをしながら、日本語とラトヴィア語による俳句朗読と俳句についての講演を英語で行った。リーガ在住の詩人レオンス・ブリエディスのサポートのもと、5日から11日まで、忙しい日程をこなした。

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 ここで感じたのは、俳句創作が年配者から若者にいたるまで、勢いを増しつつあることだったが、俳句については古典以外の情報は乏しいようだった。現代俳人が実際に訪れ、ラトヴィアの人々と接したのも、たぶんはじめてだったろう。
 定期的な日本とラトヴィアの俳句交流が、今後望ましい。

 エストニアでは、12日から16日まで、満月詩祭とその関連事業としてのラプラの町の俳句イベントに招待された。ここでも、俳句朗読と俳句についての講演を行う。俳句についての講演では、日本語の文字表記という基礎から説明した。私の俳句朗読は、アンドレス・エヒンによるエストニア語訳と朗読の助けもあって、聴衆から熱気ある反応を感じ取ることができた。日本での俳句朗読に対する、聴衆の静かな反応とは対照的。

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 定期的な日本とエストニアとの俳句交流が必要とされるが、その前にエストニアにおける日本語普及も望まれる。

 リトアニアのヴィルヌスでは、18日にコルネリウス・プラテリスと、2009年10月1日(木)~4日(日)に開催の「ドルスキニンカイ詩祭における第五回世界俳句協会大会」の概略を決め、翌19日には、俳句ヴィルヌス主催の俳句ワークショップで、俳句創作を促す講演や俳句創作指導を行う。

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 ここでも、俳句熱を感じるが、日本語の特徴がほとんどリトアニア人に理解されていないことに気づく。

 これまでは、翻訳された俳句に基づいての講演や議論だったが、エストニアやリトアニアの聴衆は、日本語に関心の手を伸ばし始めたのだろう。だが、日本語はまだほとんど未知の謎の言語にとどまっている。
 2009年に「ドルスキニンカイ詩祭における第五回世界俳句協会大会」か成功裏に開催されても、その後のフォローが日本サイドで可能だろうか。

 イタリアでは、20日から24日まで、トリノ近郊のカシーナ・マコンド(文化センター)、ベルガモ、ミラノ、トリエステで、俳句朗読と講演を行う。昨年末出版の夏石番矢句集『地球巡礼』(アルバリブリ社、ミラノ、2008年)

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Pellegrinaggio terrestre / Earth Pilgrimage / 地球巡礼, alba libri, Italy, 2007.
http://www.albalibri.com/haiku/pellegrinaggio_terrestre/pellegrinaggio_terrestre.html

販売のプロモートも兼ねていた。イタリアでは、主催者やイベントの情報が大雑把で、いつでも朗読か講演ができる態勢を取らなければならなかった。
 ミラノ到着後、20日深夜から21日未明まで、カシーナ・マコンドという田舎の農場での俳句朗読は、夏石番矢俳句の翻訳のイタリア人による朗読と、オリジナル音楽演奏がコラボレートしたもので、作者としてうれしいし、大きな名誉。また、自分の死後も自分の俳句が海外で愛読される可能性を感じることさえできた。

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 24日の午後、トリエステで受けた、二つの新聞「イル・ピッコロ」と「ヴィタ・ヌオヴァ」によるインタビューは、なかなか高度で、答える側の私にもとても刺激になる。

イタリアの新聞のインタビュー記事
https://banyaarchives.seesaa.net/article/200810article_20.html

イタリアの新聞"Vita Nuova”の記事
https://banyaarchives.seesaa.net/article/200810article_30.html

 自分のスタンスを客観的にとらえ、それを簡潔に、また相手を納得させるよう言語化(この場合は英語化)しなければならないからである。こういうインタビューが、「有季定型」という俳句の固定観念に浸った日本のジャーナリズムからほとんど期待できないのは、厳然たる事実ながら、日本人としてとてもさびしい。
 24日夕方、トリエステでの「俳句 映像の詩」では、評論家ガブリエラ・ヴァレラ・グルベル女史による『地球巡礼』収録句に対する、鋭くあたたかい論評は、すばらしく、イタリア、そしてトリエステの文化の厚みを雄弁に物語る。これもまた、現在の日本国内では期待できないのは残念だ。

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 こう本人が言ってしまっては、身も蓋もないかもしれないが、夏石番矢の俳句に対する評価は、現代の詩として、確実に海外で高まり浸透しているが、日本国内ではそうではない。
 さらに、今回の四か国訪問を通じて、それぞれの国での俳句創作熱をどう導くかが、今後の課題であることを痛感する。日本国内の世界俳句協会以外の団体が、国際交流から一歩も二歩も退いた現在、とくにその感は強い。結局、日本の俳人や俳句団体は、自分たちの古い俳句の模倣を海外の俳句愛好家に促すこと以外には、国際交流を進展できなかった。日本の俳句の模倣では、それぞれの国において、詩として認知されえない。詩としてレベルが高く、また新しい特色を具えた短詩として、俳句を海外でどう育ててゆくか。これが、「世界俳句」の課題でもあることを再確認した。
 この四か国訪問を終えて、時差ぼけと疲労のさなか、東京ポエトリー・フェスティバル2008開催へと突入した。ここでも、海外詩人の俳句へのまなざしは熱かったが、日本サイドはとまどいがちであった。

    小石に銀河 異国で輝くのはHaiku  夏石番矢

参照
EU・ジャパンフェスト日本委員会
http://www.eu-japanfest.org/
ラトヴィアへの旅 「俳句 縦横無尽④」
https://banyaarchives.seesaa.net/article/200811article_24.html
バルト3国とイタリア訪問
https://banyaarchives.seesaa.net/article/200808article_36.html

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