『古事記』ノート(8) おのごろ島生成

しばらく中断していた『古事記』ノートを再開したい。

天の沼矛で、イザナキ・イザナミ二神が行った行為は、次のとおり。

鹽許袁呂許袁呂迩【此七字以音】畫鳴
【訓鳴云那志】而。引上時。自其矛末垂落之鹽。累積成嶋。是淤能碁呂嶋【自淤以下四字以音】

「塩こをろこをろにか画き鳴らして引き上げたまふ時その矛の末より垂れ落つる塩、累なり積もりて島と成りき。これおのごろ島」

これは何を意味するのか。まずは、アルタイ系の神話や伝説が連想される。

モンゴルの伝説であって、天から降りてきた神が≪鉄の棒≫で原海の液体をかき混ぜると、液体の一部は濃くなって陸になったというものだ。(ウノ・ハルヴァ著 田中克彦訳『シャマニズム アルタイ系諸民族の世界像』、三省堂、1989年、53ページ)

神々と悪魔たちはこの乳海の中で世界の柱を、バターを作る時に使うすりこ木のようにかきまわして、あらゆる生命を創りだした。(『シャマニズム アルタイ系諸民族の世界像』、77ページ)

インドにも同様の神話があるが、いずれもミルクをかき混ぜてバターを作っていた遊牧民の生活と想像力がベースになっている。これが、『古事記』では、製塩に置き換わっている。

ここに、遊牧民が移動し、海辺に到着し、製塩する民と混合し合体して生まれた、複合的想像力を見てもいいだろう。

その混合と合体は、朝鮮半島で起きたのだろうか。

日本では製塩の道具として、矛にも見える底が長い土器が発見されている。これも「天の沼矛」のイメージに組み込まれているだろう。

愛知県渥美町の伊良湖岬のやしの実博物館には、復元された製塩土器が展示されている。

画像


このような土器で、熱した塩水をかき回しながら煮詰めて、塩を作っていた。遊牧民の「ミルク」を「塩水」に、「すりこ木」を「矛」に置き換えて生まれたのが、塩のかたまりとしてのおのごろ島。

    沙漠ははるか土器に煮詰まる神話と塩  夏石番矢

『古事記』の表現で、天の沼矛を、「画き鳴らす」というところに、強く詩を感じる。「画く」が「掻く」の当て字としても、とてもすぐれた感覚だ。

    わたつみに矛で書き鳴らすすべての詩  夏石番矢


参照
『古事記』ノート(7) 神代七代3
https://banyaarchives.seesaa.net/article/200806article_34.html
やしの実博物館(伊良湖自然科学博物館)
http://www.geocities.jp/shimizuke1955/1210yashinomi.html

この記事へのコメント

  • 游氣

    名古屋郊外に猿投山という小高い山があります。
    何気なくハイキングに行ったら山頂に宮内庁管理の立派な古墳があり、何事かと調べました。
    するとその墓はヤマトタケルの双子の兄のオウスノミコトという人のものと分かりました。
    タケルはオウスを殺したとか、オウスが美濃に住み着いてしまったとかと、古事記と日本書紀では内容が異なるのですが、身近に記紀の世界があって驚いたものです。
    ブログに写真を載せました。
    http://h-mishima.cocolog-nifty.com/yukijuku/2008/10/post-a4f9.html#search_word=猿投

    http://h-mishima.cocolog-nifty.com/yukijuku/2008/10/post-182d.html#search_word=猿投
    2008年11月14日 06:36
  • Fujimi

    尾張には、渡来系の古い文化があるようですね。萱津神社のカヤノヒメは、野の女神であり、漬物の神様でもありますね。オウスノミコトの墓というのは、いぶかしい感じがします。
    2008年11月14日 10:16
  • ザッコ

    古事記にある言葉は意味がなかなか深いですね。
    今日読んだ本で、砂防はサボーと英語になっているということ初めて知りました。
    2008年11月15日 02:13
  • 熱田

    修理固成の源郷は旧出雲国の島根県安来市あたりらしいですね。まあ神話の話なので正確か調べようがありませんけどね。
    2009年09月07日 18:44
  • 葛城

    まあ手がかりはイザナミの神陵かな。あとスサノオの伝説や古代から続く鉄鋼業もあるとのこと。しかし古いだけが能でもなく先端技術を駆使した高性能特殊鋼を最近では開発しているらしい。
    2009年12月07日 21:45
  • Fujimi

    游氣さん、葛城さん、「猿投」は、サナギ=鉄鐸という説を、大正時代の自由詩人だった、福士幸次郎が唱えています。青森に多い福士姓は、「吹く」=鞴に息を吹き込む、鍛冶に関連しているでしょう。福士幸次郎が、鉄から古代日本を見た『原日本考』(1942年)は、おもしろい本です。ネット経由で古本屋から入手しました。サナギ、サナミが、鉄鐸という主張です。
    2009年12月08日 00:02

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『古事記』ノート(9) 天の御柱と八尋殿 を見立てる
Excerpt: イザナキ、イザナミ二神が、天降り、結婚したのは、どういう場所だろうか。
Weblog: Ban'ya
Tracked: 2008-12-03 19:56

古事記ノート(9) 天之御中主ふたたび
Excerpt: 1年ほど中断していた、古事記ノートを再開したい。その間、ゼミは進行していた。
Weblog: Ban'ya
Tracked: 2009-11-16 18:03