安井浩司の新句集『山毛欅林と創造』(2) 西という原郷

2 西という原郷

安井浩司の新句集『山毛欅林と創造』を読み解く二つ目のキーワードは、「西」である。その「西」とは何だろうか? まず作品を列挙してみる。

    鯛裂くに少し思うや西の波  Ⅰ

    西の空見るはまぐりの薄開き  Ⅱ

    西風は捲るや野牛(のうし)のよだれかけ  Ⅴ
 
    二月西風海辺の点呼に鯔深し  Ⅵ

    西の方童女うつくしつつまんこ  Ⅶ

これらの俳句の「西」には、日本列島内の西、さらにははるかユーラシア大陸の西が含まれているように思える。

日本列島で人類が誕生したのでなければ、東西南北から日本列島へ、とくに西のユーラシアから日本列島へ人々はやってきた。私たちの先祖は渡来人である。その先祖たちのふるさと、原郷を、安井浩司の俳句の「西」は指し示しているようだ。

安井の俳句において、「鯛」「はまぐり」「野牛」「鯔」「童女」は、日本人の原郷、「西」と関係付けられて、なつかしくも、生き生きしており、エロティック。

「はまぐり」では暗示的だった女性器への暗示が、「童女」の句では、あからさまになっている。「つつまんこ」とはよくも表現したものだ。日本列島の「西」、さらにはユーラシアの「西」で、美しい幼女が、筒としての女性器を外部に、透けて見せている。肉体の基本形の一つは、筒である。

安井浩司の俳句世界では、日本人の原郷としての西へのはるかな思いが、空間にも時間にも、大きなふくらみと内実をもたらしている。


    西に龍西に道あり波の道  夏石番矢

参照
吟遊俳句賞2003受賞者、安井浩司の新句集『山毛欅林と創造』(1) 天地創造
https://banyaarchives.seesaa.net/article/200707article_19.html

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