古代ローマ遺跡、円形闘技場からの眺めは、グラン・ローヌ川も見えて、なかなかシック。水運と陸運の要衝として、古くから栄えた。
アルルを歩き回って感じるのは、住人が物見高くなく、日本人を珍しがって、じろじろ見ないことだ。静かな通りを、さしたる危険も感じずに気ままに歩けるのがいい。大きな通りよりも、細い小道に、趣がある。さびれても、そのさびれにいじけていない風情がいい。
アルル駅近くの角地に立つ家をゴッホは借りて、黄色い家(la maison jaune)と呼び、ゴーギャンも2か月住んだが、いまはない。上の絵は、1888年9月にゴッホが描いた有名な「黄色い家」。
第二次世界大戦中の空爆で消滅し、その跡には家はなく、裏手の4階の建物は、ゴッホの絵と同じようなたたずまいを保って立っているが、実物はゴッホの絵ほど黄色くはない。
アルルの寒風ゴッホの家はいまは道 『地球巡礼』(立風書房、1998年)
1888年9月に描いた「夜のカフェ・テラス」にも、黄色が効果的に使われている。くつろぎと夢と生命力の黄色である。夜空の青ともよく響きあっている。
ゴッホが広重や北斎などの浮世絵にあこがれていたのはよく知られているが、日本の版画に事物の影が描かれていないのは、影が生まれないほど日本は明るいとゴッホは理解した。アルルで彼が発見した黄色は、光の国日本の色でもあった。
実物のカフェはいまも残っていて、観光名所になっている。
こうやってゴッホの絵と実景をくらべると、ゴッホが黄色をかなり強調して使っていることがわかる。その黄色の結晶が、一連の「向日葵」。
そのなかで、私が最も好きなのは、1889年1月の「静物、15の向日葵と花瓶」。東京・新宿にある損保ジャパン東郷青児美術館が所蔵し、常設展示している。ゴッホがあこがれた光の国日本にこの絵があるのは、決して場違いではない。
私は「灯台下暗し」で、ようやく2006年5月にこの絵を実際に見ることができた。絵のすばらしさは言うまでもないが、新宿にホームレスが増えていることに驚いた。
損保ジャパン東郷青児美術館
http://www.sompo-japan.co.jp/museum/gogh/index.html
この絵は、他のゴッホの「向日葵」にくらべて、品格が高い。ありふれた向日葵が、黄色の洪水のなかで、千手観音のような存在として屹立している。この15の向日葵に、美も醜も、善も悪も、生も死も、知も愚も、永遠も瞬間も、対立するものすべてが見える。
向日葵に善悪美醜すべてが見える
彼は消え絵の向日葵は千手観音
黄色い夢は絵となり化石の町寒し
黄色い夢の結晶いまは超高層に
影多き光の国に向日葵繚乱 夏石番矢
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