アヴィニョン(2) 聖霊の橋

旧法王庁から北へと、下り道を歩くと、あのアヴィニョンの橋の入り口に行き着く。渡り口ではなく、入り口と書いたのは、川沿いの太い道路に面した特別の小さい櫓のような場所から、橋へと登るようになっているからである。

この橋の正式名称は、聖ベネゼ橋(Pont Saint-Bénézet)。

http://www.avignon-et-provence.com/avignon-tourisme/monuments/pont-avignon.htm

1177年、ヴィヴィエの近くで牛飼いをしていたベネゼが、突然、天からの命令を声を聞き、天使に導かれて、アヴィニョンの城壁の北のはずれの岸にたどり着き、そこからローヌ川をまたぐ大工事を一人だけで始めたという伝説が残っている。最初は、アヴィニョンの住人に馬鹿にされたという。橋は聖ベネゼの没後数か月の1185年に完成した。

この橋は何度も洪水の被害に遭い、現在は、川岸から北西に伸びた一部分しか残っていない。






この橋の先端には、ローヌ川の悠々たる流れが広がる。水面が平らなので、どちらへ流れているかも、よく観察しないとわからない。実際には、写真の右下から左上へとゆっくりと流れている。おだやかな流れも、増水すると恐ろしい破壊力を発揮する。

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たとえ、この橋が途切れていても、向こう岸に渡れなくても、ここにいるだけで、なぜか心がとても落ち着く。あのまるで幽霊屋敷のような法王宮殿に入ったあとだけに、旅人ととしての緊張をゆるめられる。

    アヴィニョンに橋を架けんと思う椿事     

    まひるまのアヴィニョンの橋で鼻をかむ  夏石番矢(『地球巡礼』)

このようなのんびとした句が、この橋の上でできた。同じアヴィニョンの暗い法王宮殿とはまったく対照的な石橋。聖ベネゼを導いた精霊が、この橋にいまも留まっているのだろうか。聖ベネゼ礼拝堂が、橋の下に設けられているが、見事なくらい何もない。

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南仏の太陽を直接受ける聖ベネゼ橋の上から、アヴィニョンを振り返ると、2月だというのに、あの法王宮殿さえ光のもやに包まれて、楽園のように見える。

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人通りも絶え、「アヴィニョンの橋」の歌にあるように誰も踊っていなくても、いまもこの橋には、清浄でおおらかなエネルギーがゆったりと踊っている。あの歌も、この橋のそういう雰囲気を表現しているのでないかと思い付いた。

アヴィニョン随一の聖地は、途切れた聖ベネゼ橋だと私は確信した。観光客もあまり来ておらず、しばらくこの橋でくつろげた。また訪れたいと希望しながら、その後この橋を再訪する機会に恵まれていない。

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